マイクがたくさん立っていると、いかにも「手間暇かけて録音してくれてる!」という感じがしますよね。はたまた、「人間の耳はふたつしかないのにそんなにあちこちにマイク立てるなんておかしいんじゃないの?」という考えもあるかもしれません。マイクは少ないほうがいい? 多いほうがいい? いったいどっちなんでしょう?
以下はホールでのクラシック録音の場合ですが、
- ホールの音響が素晴らしい
- 三点吊り装置に吊ったマイクをベストな位置にセットできる
- 演奏のバランスがまったく問題ない
- 最終的な音の仕上がりの目指す方向性は、客席で聴いているような音
この4つの条件がすべて揃っている場合、三点吊り装置に吊ったマイクだけ(ワンポイント収録といいます)でまったく問題ありません。
また、たくさんのマイクを立ててその音を混ぜていくと(マルチマイク収録といいます)例えばオーケストラの場合「ヴァイオリン1stのマイクには1番最初にヴァイオリン1stの音が入ってくるけれど、ティンパニの音は一番最後に入ってくる」、逆に「ティンパニのマイクには1番最初にティンパニの音が入ってくるけれど、ヴァイオリン1stの音は一番最後に入ってくる」という現象があちこちのマイクで発生しているので、混ぜれば混ぜるほど音が濁っていきます。やっぱりマイクは少ないほうがいい!?
しかし、先ほど箇条書きで挙げた4点、これをすべて実現できる可能性は現実にはなかなか難しかったりするのです。
1番については、日本には音楽専用のホールが少ないので、クラシック音楽にベストマッチした響きのホールというのは案外少ないのは演奏しているみなさんが一番よくご存じかと思います。
2番については、「三点吊り装置が付いている位置が舞台から遠い」だったり、「録音的にベストな位置にセットすると、照明や映像撮影上都合が悪かった」などが発生することがあります。
3番については、やはりステージ上で起きているバランスとまったく同じではないので録音したものをあとから聴くと「ここはトランペットをもう少し上げたい、ここはティンパニをもう少し上げたい」ということが起きるのはよくある話です。
4番については、録音ならではの各楽器の輪郭がくっきりとしたような音の仕上がりを目指している場合、これは各楽器の近くにもマイクを立ててそれを混ぜていかないとそういう音にはなりませんのでやはりワンポインント収録では実現が難しいです。
また、録音時点では4番のような音を目指していたものの、録ってラフミックスされたものを聴いたら方針が変わったということもよくあるので、そうなっても大丈夫なように(最終的には使わないかもしれないけれど)色んな音作りの方向の可能性を残しておくためにたくさん立てておく、ということもあります。
しかしワンポイント収録は、いろんな条件が上手くハマれば「濁りの少ない、自然な音の広がり」を実現できる録り方なので、この方法にこだわっているエンジニアや演奏家の方もいらっしゃいます。
というわけで、「基本的にはマイクは少ないほうが音は濁らないけれど、たくさん立ててないとできないこともたくさんある」ということなのでした。